「私の投壜通信」7/7バッハ祭によせて

新作と改作を上演します

出演:河崎純(作曲・コントラバス)みのりて(小阪亜矢子 :メゾ・ソプラノ,今井貴子 :フルート,北嶋愛季 :チェロ)ゲスト:小沢あき(ギター) バッハ祭り2024・夏(昇天祭)5DAYS + 1 J.S.BACH / 21 March 1685 – 28 July 1750) 18時開場 / 18時半開演 予約 ¥3500~ 当日+¥500 配信 ¥2000(3weeks見放題) 配信全部買い ¥7000(5Days+1)※1 会場:横浜エアジン

 「私の投壜通信」

新作はバッハをテーマにした「或る日のヨハン-南洋編」。コントラバス即興演奏をおりまぜた組曲は、こんな奇想から生まれた。オランダ船に乗った台湾を訪れた。器楽の作曲法を洗練させていたバッハが、世界史の十字路、東アジアの群島を漂流する。南洋の島々の文化と気候にたいする驚嘆や苦悶で、バッハの音楽が頭の中でバグを起こしているようなイメージで作曲。だからいわゆる「~風バッハ」とは異なる。漂着した島々には豊かな文化とともに、離島ゆえの苦難の歴史が存在する。

改作は「捨て子たち星たち2024」。この歌曲群は、ベルトルト・ブレヒトとパウル・ツェランの20世紀のドイツ語詩の翻訳から作られた音楽詩劇研究所の初作として2015年に上演した。昨年、現音ペガサスコンサートにて再編曲を行い、みのりての演奏によって3曲が蘇った。その素晴らしい演奏に気をよくして、今回はさらに数曲を加えてしまった。

語りえぬホロコーストの残傷から鉱石のような言葉の星々を紡いだユダヤの詩人パウル・ツェランは、このよう言う。

「詩は 波に委ねられる 投壜通信」

人間は「国家」の名の下に殺人や拘束を正当化しつづけるのだろうか。済州島、琉球の島々、台湾でもそのような虐殺が行われた歴史を持つ。

私のアパートで練習したりときどき一緒にコンサートを行っていた、近所に住む異国の友人が、決断してつい先月、飛行機に乗って遠い本国に戻った。彼の故郷の民族の歌をたくさん教わった。本国の事情で拘束され、長年の拘留を言い渡されているとも聞く。肉体労働して仕送り、故郷の歌を歌っていただけ、だというのに...

届きようもない虚しい祈りだ。だが、日本語が堪能ではなかった彼のいつもはにかんでいるような顔を想い、アジアの西の端に向けて、マルマラの海、ボスポラス海峡に向けて横浜の波止場から音符と言葉をつめたを託す。

声が風に漂ってそれが人の心を震わせ、自然や建物とも交感する。音楽の原初は声だ。それはむろん楽譜などに記録しうるものではない。そのような本性を即興演奏家としてライブを実践する私が、書物に書かれた言葉も用いて楽譜に音符を書いたり、演奏された記録したりすることに、いまなをこだわりを持ちつづけるただ一つの理由は、それらが遠くまで祈りを伝えうる、最終的な手段であるからだ。

少年は「潮の香りのする古びた」書店でそのミクロコスモスに出会った。カタルーニャの音楽家パウ・カザルスがバルセロナでバッハの無伴奏チェロ組曲の楽譜を発見した挿話は、あまりに有名だ。人々に忘れられていたその曲が、陸路フランスを経由したのか、地中海を渡ったのかは知らないが、オランダ付近のドイツケーテンで16世紀の初頭に作曲され、その楽譜は印刷されて漂い続けた。独裁政権とファシズムに抗いカタルーニャの独立を祈り、亡命、移住を続けたカザルスは演奏活動を停止。やがて活動を再開し、地中海の空を舞う故郷の鳥のさえずりが海を越え、平和を祈念した。

 さて、7/7の横浜でのコンサートは「バッハ祭」であるにもかかわらず、バッハの曲を演奏しない不遜なものだ。だが、いまになって、いつしか日本にも渡ったこの無伴奏チェロ組曲をプログラムに入れてみようかと思い始める。北嶋愛季さんがバロック・チェロで演奏してくれたら最高だが、まさかいまから頼むわけにはいかない。せめてその断片でも私がコントラバスでぽつぽつと演奏しよう。不在の友が弦楽器を弾いて一緒演奏した中東のマカームを用いて即興演奏し、その中にこっそりバッハの単旋律をひそませようか。(2024年7月2日)

「みのりて」(小阪亜矢子 :メゾ・ソプラノ,今井貴子 :フルート,北嶋愛季 :チェロ) ヨーロッパで研鑽と実績を積んだ音楽家が、近代・現代の室内楽曲を探求・発表するため2022年に立ち上げた企画=団体。フランス語でマイノリティを意味し、日本で演奏される機会の少ない楽曲を取り上げることで社会的なマイノリティに光を当てる「実り手」になろうという思いが込められている。

 

小沢あき

10代後半単身 NY へ。 Bill Ficca(TELEVISION)、 Howie Wyeth(Bob Dylan)等と共演。帰国後、多種多彩なアー ティスト達のライプ、レコーディングに 参加。Jazz、Pops、Avant-garde、タンゴ、フラメンコ、演劇やサイレント映画 の伴奏等。ギターという楽器を通して世界の音楽を ハイブリッドに追求

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